僕は現在、大学の講義で映画批評を学んでいます。その中で、ジブリアニメの特徴とそのステレオタイプ的な特徴から逸脱した『もののけ姫』という作品の特異さについて学びました。今回はジブリアニメにおけるステレオタイプとはどういったものかということについて記事にまとめていきます。
ジブリ作品は大好きで、特に小学1年生の時にはじめて映画館に行った作品として『千と千尋の神隠し』は今でも大好きな映画の一つです。有名作品ばかりで誰でも一度は見たことがあるジブリ映画は世界中で大人気です。
目次
ジブリアニメにおけるモチーフ
ジブリアニメにおけるステレオタイプとはどういったものでしょうか。それを明らかにするためには、数々の作中で何度も使われている表現(モチーフ)に注目する必要があります。
わかりやすい例を挙げると、ジブリアニメの主人公は多くが「少女」であり、「孤独」ないしは「孤児的」であることが挙げられます。千尋は家族と離れ離れになり、ナウシカには父はいますが病床に伏しています。他にも『となりのトトロ』のメイとサツキや、『魔女の宅急便』のキキなども孤児的な要素を持っています。
「少女」→「子ども」+「弱者」
少女とは「子ども」であり、「弱者」である存在です。このような弱い立場のキャラクターは基本的に、強い男性キャラクターに助けてもらうというパターンがお決まりです。しかし、ジブリアニメでは通常「弱者」であるはずの「少女」が助けてもらうだけではなく、「戦う」「挑戦する」というのが多くのジブリアニメにみられる特徴です。
このような特徴(モチーフ)を持っているからこそ、ジブリアニメは世界中から評価されているのです。つまり、従来のお決まりのパターン(ステレオタイプ)から逸脱していたからこそ、ジブリアニメは観客を魅了するのです。
しかし、当初目新しいものに思われた表現も何度も使われることによって、徐々に飽きられていきお決まりのもの(ステレオタイプ)になってしまいます。
『もののけ姫』は数あるジブリアニメの中でも特に従来のステレオタイプから逸脱した点を多く持ちます。その中でも特に特徴的なステレオタイプからの逸脱を表す例が作中に登場する森の神である「シシ神」と女性リーダーの「エボシ」です。
①シシ神
「シシ神」はこれ以前のジブリアニメに登場する森や神に対するポジティブなイメージと異なります。ポジティブな存在の代表的な例がトトロです。トトロは森の穴の中に住む子供に人間に友好的な存在として描かれています。
それに対してシシ神は、登場シーンにおいて破壊と想像を繰り返す非常に印象的な描写が描かれます。この写真をみればわかるように森の神でありながらも、森の自然を滅ぼしています。
通常、森の神は「創造主」「治療者」のようなポジティヴなイメージがありますが、シシ神は命を与える「創造主」としての側面と、生命を枯れ滅ぼす「破壊者」としての性質を併せ持っています。このような特性からシシ神は、従来のステレオタイプから逸脱した存在であるということがいえます。
②エボシ
エボシはシシ神やサンたちを滅ぼすことに執念を燃やす女リーダーです。通常このような適役は、徹底的な悪として描かれる場合が多いですが、エボシは違います。
彼女はサンたちの命を奪うことも厭わないですが、同時に病人を助けたり、身寄りの無い女性に仕事を与えたりしています。破壊者であり、救済者でもあるというところが特徴です。
女性でありながら率先して戦いを挑み、製鉄所を引率しているところが従来のお決まりのパターンと異なるところです。通常このような役割をこなすのは、男性であるというのがお決まりですが、『もののけ姫』では女性であるエボシが活躍しています。
タタラ製鉄所で働く女たち
タタラ製鉄所で働く女達も、従来の映画とは異なった特徴を持っています。彼女たちは、女性でありながら、外で仕事をこなしています。一方男たちは、米の買い出しなど一般的には女性の仕事である「買い出し」従事しています。
つまり『もののけ姫』では、エボシだけでなくすべての女性が従来のジェンダー観から逸脱していることがわかります。また、このタタラ製鉄所の女性たちは他のジブリアニメには見られない外見的な特徴があります。
この画像をみればすぐにわかりますが、女性たちが胸の谷間を露出させていることが非常に印象に残ります。これは無意味に胸を露出させているわけではなく、ちゃんと意味があります。
従来のジブリアニメのステレオタイプから逸脱してまで伝えたかったことは、女性たちが労働に従事していること視覚的に表すことです。他のジブリアニメでは女性の肌の露出は殆ど見られませんが、この映画では女性が男性の役割を務めているということを表すためにわざわざ肌を露出しているのです。
まとめ
『もののけ姫』従来のお決まりのパターンから逸脱している部分が多かったからこそ、世界中で今でも評価さえている作品になりました。
エボシやシシ神のような2つの属性を併せ持つキャラクターが登場する点は、ディズニー映画を比べると対照的です。ディスニー映画は、勇敢に戦う正義のヒーローと、根っからの悪人というわかりやすい特徴を持ったキャラクターが登場します。
しかし、ジブリ作品ではキャラクターたちが状況や、心情によって様々な感情の起伏をみせます。これが、ジブリ映画をリアリスティック(現実的)で面白い作品にしています。このような視点で『もののけ姫』をみると新たな発見がたくさんありました。
映画の批評というのは難しいですが、繰り返し出てくる表現(モチーフ)と、お決まりのパターンからの逸脱というポイントに注目すれば、新しい発見があるかもしれません。
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